2019年7月8日月曜日

虚無という報酬 ~覚せい剤から更生しようとする人々に~

                                                  八王子地区 山田雅彦

我をさえ全く忘れて身震いするという恍惚
日々のしがらみから抜け出せるという幻想の空間  
肉体を呪縛する金鎖からの解放
昇ってまた浮遊していく天人の感覚
我を取り巻く周囲は光輝き、力みなぎり
動物としての睡眠さえ不要にするという・・・その短い瞬間

全く微量の覚せい剤と呼ばれる白い粉が
その人間を天上にまた劇場のスポットライトの中に
眩い光と歓声の渦の中に浮き上がらせ
しばらくは、そう、ほんのしばらくは、泳がせるのだという
覚せい剤という薬物が作り出した、この虚偽の精神と空間
そうして・・・徐々に、やがて、血中のまぼろしが消えると
自ら作ってしまった、虚偽の空間と精神から
必ず、戻らなければならない、いつもの自分に
必ず、還らなければならない、自分の在り処に

人はぼんやりとし、やがてのたうち、胸をかきむしるとき
虚偽と破滅にまた浸かって、自分の存在を忘れるか
それとも、いつわりの快楽の刹那を求めて
再び、三度・・・虚偽の空間にしばし浸かろうとするか・・・
諾、否、諾、否、諾、否・・・・・・・
差し伸べられる手を探り当てて、苦しみ悶えて抗えるか!
すぐ目の前にある、精神も肉体も焼き尽くす必然の瞬間に

人が自分を快楽の怪物に変身させたことは
すぐさま自らを無限奈落の底へと突き落とす
虚脱感、虚無感、焦燥感、幻聴と幻想
無力感、孤立感、罪悪感、倦怠と自傷
再び、立ち上がれるか、立ち向かえるか!
この薬剤を存在させた、最も巨大な、人間の罪悪と